人の背後の閉ざされた通路

無1.png
                                                                            
                                                                            
                                                                           
その家の、あるじの姿を見たことはないんです。いつだったでしょうか。再スタートする前の、同タイトルのこのブログに画像を載せたことのある、近隣のT木工所。開いた戸の間から、内側の一部の様子を撮ったものでした。木工所といっても、昔ながらの店先のような幅3メートル余、道路に面した家の前を使っている処で、看板は出ているものの、とうの昔に仕事としては止めたという様子であるんですね。それもかなり以前のことになりますが、最初に見た頃は、仕事をしているものなのかどうか、通りがかりに関心を覚えて見たりしたものでした。でも、出入りするはずの位置の戸は閉め切ったままの感じだし、その省り見られずに放置されたままのような印象からして、どうもそれはないのではないだろうか、という印象で見ていたものでしたね。その汚れたままの硝子戸を通して窮屈そうな狭い場所に置かれた、そこで仕上げられたものと思しい年月を感じさせる木工品は、子供向けのもの。玩具のようでした。それをそこでかつては売っていたものか。あるいは注文に応えて、作られていたものか。そのうちには、閉じられた古びたカーテンでそうした品々も見えなくなり、私が画像を撮った右サイドだけ戸を80センチほど開いているのが常のようになっていました。仕事台の端が見えて、昼の時間、明かりとりの必要からも開いている、という感じ。右の壁は一面棚になっていて、さまざまな材料、必要なものがのせてある。詰め込まれている。人がやっと一人通れる程度のスペースしかないような、、仕事材料に埋もれた工房の風情。裸電球が一つ。それに照らされた、夜のその、工具や材料に埋もれた工房の、その場の長い時間の推移を思わせる感じ。外とは別の世界、異空間がそこにあるような、味のある、雰囲気良い眺めでしたね。
                                                                                           
広さは、問題ではないんでしょう。家も古びて痛み、すべて放置状態にせざるを得ないような貧しさを思わせはするのだけれども、その開いた戸の内側に覗けた空間に感じさせた、夢ののこり。そこにあるじが立つ限り、たとえささやかであれ、彼の夢は終わらずにつづいていくだろうと思わせるような、そんなふうに感じさせる何かが漂っているようであったんですね。そこから、音がもれて聞こえ、作業にかかっているらしい気配のすることもある。でも、姿を見せることがない。なにかそこで人に姿を見せるということが、およそ考えられないような、そうした気配なんですね。ひっそりと、閉ざされた場に入り込んでいる。そこから、もう出てくることのない心になっている。そのように感じさせて。
                                                                                             すぐに物を忘れてしまうこの頃なので、12日だったか、13日だったか定かではないんですが、ともかく一週間ほど前の夜8時近く、日課のウォーキングをしに近くの運動公園に向けて出る時に、消防自動車のサイレンの音をきいたんですね。何台も、やってくる。その向かっている方を外に出てから見た限りでは、近くで火事があるというふうではなかった。いずこにも、煙の上がっている様子はない。どこかで、ボヤ程度のものがあったのかもしれないと感じた程度。だからその翌日、たまたまその木工所そばを通りかかった時に、その家が二階に至るまで黒焦げになり、総て焼けてしまっているのを眼にした時には、眼を疑いたくなったものです。そういうことが現実にあるものかと。前夜のサイレンの音が、よみがえりました。
                                                                                             
残酷なものであると思います。総てを失うこと。奪われること。絶望。そのための心の準備もしようのない、そうした絶望的なことの、人生に突如として起こること。思ってしまうんですね、そのあるじの心。
                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                      
20  September 
同タイトルの前Mediumboxに載せたT木工所の画像は、確かこれであったと思います。見つけましたのでここに。全て、焼失してしまったことになります。 
                            
012as.JPG

VISITOR'S!(15)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

VISITOR'S! 15

コメント 8

ばん

焼け落ちた家の主に対するコメントは出てきません。

最初のお写真は「落とし穴の罠にハマって穴から見る外側」と云う雰囲気
でしょうか?。
by ばん (2010-09-19 23:58) 

きよたん

一瞬にして消失 燃えてしまってなくなる
自分からではなく思いもかけずというのは
ほんとにむなしいものですね
形あるものは永遠はありえないとしても
by きよたん (2010-09-20 19:57) 

chako

よもや、続きがあろうとは。その画像は覚えています。玩具を作っていた、というところがなぜか更に哀しいですね。その画像を元のブログで見た直後に、三春のデコ屋敷で、似たような風景に出会いましたから、今でも目に浮かびます。
もしかしたら、店主自ら火をつけられたのかもしれない。すべて、灰にしてしまいたかったのかもしれない…などと思ってしまいました。
(誠に不埒な感想ですが、あくまでも印象です。)
by chako (2010-09-23 10:32) 

extraway

アリガトウゴザイマス、伴さん
画像を最初のものとすぐに変えてしまいましたので、伴さんの言っておられる画像は、今のものに対してではないんですよね。それはともかく、伴さんのイマジネーションは興味深く。
by extraway (2010-09-23 20:07) 

extraway

アリガトウゴザイマス、きよたんさん
こういうことというのは、誰に起こっても不思議ではないということ、なかなか考えないものなんですね。
14、5年前だったか、前の住まいにいた頃、夜中に目覚めたら窓が真っ赤になっていたことがあって、咄嗟にすべきことを考えなければならないという状況になりました。が、火事がすぐ隣ではなく、その向こう側であることが分かって、何を持ちだせば良いのかという緊急の判断を迫られるようなことから解放されたんですが、そんなことも思い出します。
by extraway (2010-09-23 20:23) 

extraway

アリガトウゴザイマス、chakoさん
私はそういうことまでは想像もしませんでしたが、人の心に起きることは分かりませんからね。ウツ、ということなどあります。何故このひとが? と思われる著名なひとたちのウツゆえと思われる自殺などの報道に接しても、心のことは、なんとも。この場合のことでは何も分からないので、謎と言うしかありませんが、外界と没交渉のような閉ざされた場にいつづけた人のような印象からすると、老いのこともある、考えられることがでてくくるようにも思えますね。
by extraway (2010-09-23 20:38) 

ぶーけ

最初の画像はDNAみたいですね。
工房って憧れです。そんな場所いいなあ。。焼けちゃったんですね。残念。
by ぶーけ (2010-09-24 12:58) 

extraway

アリガトウゴザイマス、ぶーけさん
面白い見方、有難うございます。DNA。
そうですねえ。ぶーけさんなどは、そうした場所、是非とも必要なところなんでしょう。その方面のworkをするひととしては。
by extraway (2010-09-24 22:02) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。